私のレコードコレクションは8割方ブリティッシュなんだけど、このあたりからアメリカーンもぼちぼち増えてくる。 というのも、ふとしたきっかけで、この年に渡米したから。
アメリカでは、日本から持ってきたソニーのウォークマンがステレオ代わりだったので、レコード店でこのアルバムのカセットテープ版を購入した。 ミッシェル・ショックトはイギリスのインディーチャートに入っていたから名前は知っていた。 アメリカより先にイギリスで人気が出てた。
まず一曲目の”When I grow up” のイントロから、体がゾワゾワしてくる。 泥臭いブルースが始まる。 歌詞のインパクトも凄かった。
When I Grow Up
大きくなったら、老婆になりたい
大きくなったら、老婆になりたい
あぁ、本当に年をとった老婆になりたい
そして老爺を見つけると思う
そしてその老爺と結婚すると思う
年をとった、年をとった、年をとった、年をとった、本当に年をとった老爺
そして私達は、百二十人の子供を作る
百、百五、百十、百十五、百二十人の赤ん坊
そう、百と二十人の赤ん坊
トラのミルクと緑のバナナで育てる
マンゴとココナッツとスイカをあげる
赤ん坊達が泣き叫べば、スイカを与える。
こうやって赤ん坊は泣き叫ぶ...
夏は野原に座って太陽が熔けるのを望み、
冬は火のそばに座って月が凍るのを眺める
私と年老いた夫と百二十人の赤ん坊
私と年老いた夫と百二十人の赤ん坊
そう、私と年老いた夫と百二十人の赤ん坊
あぁ、大きくなったら、老婆になりたい
大きくなったら、私は年をとった... <Syco訳>
それまでブルースをじっくり聞いたことはなかったので、ミッチェル・ショックトが私のブルースへのイントロダクションになったと思う。 このアルバムは全体的にはブルースだけどカントリーっぽい曲も2,3入っていて、最後はいきなりパンクで終わる。
イギリスの音はメロディが綺麗で、妄想を膨らませながら聴いていた。 けど、アメリカはメロディよりも心を揺さぶるリズムなんだよね。 アメリカはイギリスから迫害された清教徒が作った国だから、スピリチュアルな面が強く残っているのかな。 もちろんアフリカから連れてこられた奴隷の哀歌のリズムが元になっているんだけど、白人黒人問わず、アメリカの音はソウルフルだと思う。 少なくとも私の好きなアメリカの音楽はソウルフルだ。
ミッチェル・ショックトは敬虔なモルモン教の家庭に生まれ、厳しく育てられて、10代で家出をし、サンフランシスコでパンクロッカーをやったりして、母親に精神病院に入れられたりしたらしい。
この”Short Sharp Shoked"は彼女の2枚目のアルバムで、デビューの”The Texas Campfire Tapes”はアコギ一本でキャンプファイヤーを囲って歌っている感じの粗削りなレコードで、それはそれでいい感じ! しかし3枚目は凡庸なスウィングジャズのアルバムを出しちゃって、そのあとはコッテコテのカントリーで、結局私が好きなミッチェル・ショックトは2枚で終わった。
このアルバムが出たころのショックトは超リベラルで、レズビアンで、無実の罪で警官に殺された黒人のこと(Graffiti Limbo)とか、閉鎖された炭鉱の町のこと(The L&N Don't Stop Here Anymore)とか歌っていた。 この88年には超左翼のあのビリー・ブラッグと一緒にステージで踊ったりしてた。 しかしそのあと一変して、普通に男と結婚して、それどころか近年は同性婚反対運動までしている。 そのことを知ってびっくり仰天だったんだけど、おそらく、この人はとってもスピリチュアルな故に、常に神様と自分の関係についてまじめに考えていたんだろうね。 そしてたどり着いたのが、またキリスト様だったんだよ。 そして、今ではゴスペルを歌っているらしい。
再び宗教という阿片で麻痺させられてしまっている 彼女。 結局1枚目と2枚目は、彼女が覚醒した時期に録音できた奇跡のアルバムかもしれないね。
youtubeでこのアルバムの曲を探したけど、一つも上がって来ない。
このリンクでブルージーなミッシェルが聴けるかも。
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