気持ちがかなり消沈しているとき聞くアルバムは何か。
スミスだったり、レディオ・ヘッドだった時もあったけど、今、聞いていたいのはニック・ドレイクのデビューアルバム、"Five Leaves Left"だ。
彼の繊細なアコギのサウンドと、バックの弦楽器と、静かな歌声が心に染み入る。 何も考えず、ただぼーっと繰り返し繰り返し、永遠に聞いていたい。
ニック・ドレイクは生前は全然売れなかった。 生涯リリースしたアルバムは3枚だけ。 1974年に26歳で亡くなって、いろいろなミュージシャンが彼からの影響を語りだし、伝説的になったのは80年代に入ってから。 まるでゴッホとか、モジリアニとか、19世紀の無名のまま死んだ芸術家のようだね。
このアルバムがリリースされたのは、1969年。 英国ではグラムロックや、プログレや、ハードロックが流行りだしたころで、派手派手のステージが求められた時代に、ニックはステージが超苦手だった。 一曲一曲が終わるたびに、長々とギターのチューニングをし、その間一言も話さず、会場は気まずい雰囲気につつまれる。 ニックが歌っている時に、雑談を始めたりする客もいたらしい。
レコードは売れないし、ステージは苦手だし、うつ病になっていく。 彼の死因は抗うつ剤の過剰摂取だけど、それが事故だったのか、自殺だったのかは誰もわからない。
ニック・ドレイクはエミリー・ディケンソンとかウィリアム・ブレイクの詩に影響を受け、ケンブリッジで英語を専攻した文学青年だから、私の語彙力や表現力は全く釣り合わなんだけど、なぜかこのアルバムの曲を一語一語訳していく作業をしていると、心が癒されるの。 で、調子に乗ってこのアルバムから6曲も訳しました。 一番好きなのは最後の”Saturday Sun”かなぁ...。
1.Time Has Told Me
時が教えてくれた
君はとってもとっても貴重な存在
困難を持った心に
問題のある療法
そして時は教えてくれた
これ以上望むなと
いつか海原は
岸を見つけるだろうから
だから僕は離れよう
僕のなりたくないものにならせようとする考えから
僕は離れよう
愛せないものを愛そうとする考えから
時は教えてくれた
おまえは夜明けにやって来た
足跡を残さない魂
棘の無いバラ
涙を流し言い訳をして
自分の困難に終止符が打てるなど
絶対にないと
人に言われた
そして時は教えてくれるだろう
じっと待ち続け
全てさらけ出せるまで
努力することを
だから僕は離れよう
僕のなりたくないものにならせようとする考えから
僕は離れよう
愛せないものを愛そうとする考えから
2.River Man
ベティ―が
今の時代と 落ち葉について
ひと言話したいと
やって来た
彼女はニュースは聞いていない
負ける選択を
する暇は無いと言う
でも彼女は信じている
河の男に会いに行こう
ライラックの季節の
僕の計画を 力の限り
告げに行こう
もし彼の河が流れる様子や
夏の夜通し続くショーについて
知っていることをすべて
僕に伝えてくれるなら
ベティーは今日祈ったと言った
空が全てを吹き消してくれるように
もしくは留めてくれるようにと
彼女自身もよくわからない
彼女が再び自分の心を呼び戻し
夏の雨のことを考えた時
痛みが消えた
そして、そのまま続けた
河の男に会いに行こう
自由な気持ちを
禁ずるものについて 力の限り
告げに行こう
もし彼の河が流れる様子を
全て僕に伝えてくれるとしても
たぶんそれは僕にとって
あまり意味を持たないんじゃないか
あぁ、それはやってきて去っていく
あぁ、それはやってきて去っていく
4.Way to Blue
どうすればよかったのか君は話してくれないのかい
太陽の見つけ方を聞いたことはないかい
知っているこ全て教えてよ
見せるべきものを見せてよ
もしブルーになり方を知っていたら
ここに来て教えてくれないかい?
そよ風が息づく大地を見たことがないかい
木々の間から漏れる光を理解したことはあるかい
君が知ってること全て教えてよ
見せるべきものを見せてよ
もしブルーになり方を知っていたら
今僕らに教えてくれないかい?
過去の中から、自分の言葉を捜して
見つけたものを僕らに教えてよ
僕らは盲目になって希望を持って
門の前で待っているから
知っていることをすべて思い出せるかい
灯がある時は
君は決して転んだりしないんだろう?
君が知っていることをすべて教えてくれないかい?
見せるべきものを見せて欲しい
もしブルーになり方を知っていたら
ここに来て教えて欲しい
6. Cello Song
きみの目を持つ、知らない顔
とても青白く、偽りが無い
そこには、良く解っているきみがいる
恐れるものなど何も無い
若い時に抱いた夢を追い
人生を語る
湧き出る泉のほとりで
夜の寒気の中では
きみははかなくみえる
感情という兵士達が
戦いに出かける時間
地面が自らの墓場に沈んで行く時
きみは空に向かって帆を掲げる
波に乗る
だから、ぼくが今生きている
この過酷な世界は忘れよう
ただここに座って
歌をうたって待とう
そしていつか人込みの中のぼくを、見つけて欲しい
そして手を差し伸べてぼくを引き上げてほしい
きみのいる雲の上に
8.Man in a Shed
あるところに、掘立小屋に住んでいる男が居た
変わり者で通っていた
男の小屋は雨漏りが酷くって
あれじゃあ、誰でも気がふれると言われてた
雨が降ると
男の気分は悪くなり
雪が降るとただひたすら悲しんでいた
その近くに少女が住んでいた
男は少女を見るといつもただ溜息をつくだけだ
少女は大邸宅に住んでいて
それは男にとっては別世界だった
それで男は少女に頼んだ
掘立小屋を直してくれないかと
少女は言った 「ごめんなさい、別な友だちを捜してね」
実は、この物語はそんなに新しくはないんだけど
でもこの男はぼくで、そうだよ、少女はきみのこと
だから君の家からぼくの小屋においでよ
お願いだから、僕の頭に雨が降るのを止めて
お願いだから、僕が君にそぐわないなどと
考えるのは止めて
掘立小屋は、君が思うほど悪くないってことがわかるからさ
10.Saturday Sun
土曜日の太陽がある朝早くやって来た
空は青く澄み渡り
土曜日の太陽は警告も無くやって来た
誰もどうしていいかわからなかった
土曜日の太陽は
生涯日の目を見なかった人たちの顔を運んできた
でも僕は彼らのことを思い出すと
みんな自分の道においては長けていたはずだ
自分の道においては
自分の道においては
土曜日の太陽は今日、僕の所にはやってこない
理屈と詩を含む話について考える
僕の頭の中を駆け巡る
それぞれの季節にいた人々についても考える
幾度も幾度もやってくる
そしてまた来る
そしてまた来る
でも土曜日の太陽は日曜日の雨に変わった
ニックの生前のライブビデオとかプロモビデオとかは一つもないけれど、後から編集されてあがってくるビデオは、みんなのニックへの思いが伝わるってくるわ~。