今年見た中で一番良かった映画。 といっても、劇場で観たのじゃなくて、ストリーミングサービスのネットフリックスで偶然見つけた映画だった。
日本ではまだ公開されていないけど「幸せなラザロ」 というような題名になるんじゃないかな。
舞台はイタリアの貧しい農村地帯で、農民は集団でタバコを作っている。 身なりからして、20世紀の初めぐらいの話かと思いきや、始まってから20分ぐらいしたら、地主が現代の服装でバイクに乗って現れ、その息子はヘッドホンで音楽を聴き、ケータイまで持っているではないの!
なんと、この村は人里離れたところにあるらしく、外界とはつながりを持たず、小作人制度はとうの昔に廃止されているにもかかわらず、地主は村人をだまして労働を搾取しているのよ。
村人たちは教育も受けず、毎日タバコ畑で働くことしか知らない無知で純朴な集団なんだけど、その村人からも、いつもぼーっとしているとか言われている青年が主人公のラザロだ。 ラザロはいつも、微笑んで他人の仕事まで手伝い、自分のものを人に分けてあげたり、困っている人をみれば手を貸さずにいられない。 彼が素直なのをいいことに、村人はいつもラザロをいいように使って、感謝もしないし、小ばかにしたりする。
ラザロはキャラとしてはトルストイの「イワンのバカ」のイワンに似ているけど、イワンは善行が運を呼んでどんどん出世するけれど、ラザロはただ搾取されまくるだけ。 それでも絶対に人を疑うなんてことは学ばないの。 悪人なんてラザロの世界には存在しないのよ。 だから、幸福なラザロなの。
ラザロは聖人? 宇宙人? もしくはただのバカ? こんな人が身近にいたら、自分ならどうする?
搾取する側は当然のように弱者を搾取し、搾取される側も当然のように搾取されている。 歴史的にみれば、革命が起こるはずなんだけど、何の疑問も持たない人間もいる。 それが幸福と言っていいのだろうか。 ラザロの人間離れした善人さは尊ぶ域を超えて、すごく不安にさせる。
私にとって良い映画とは心がぐちゃぐちゃに乱される映画。 これはそういう作品だ。
今年のカンヌ映画祭で脚本賞を取ったから、多分日本でも公開されると思うよ。