読書メモ "Gypsy Boy" by Mikey Walsh

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ちょっと前に、ジプシーパンクに嵌った時期があって、ウクライナのGogol Bordello 、チェコのGypsy.CZ、イスラエルのBalkan Beat Box、ロシアのLeningladなどを聴きまくっていた。 ジプシーが出てくる映画もたくさん観た。 一番好きなのが「ジプシー・風たちの叫び」(故イアン・デュリーも出てた!)で、自由で、独自の文化を持ち、社会に束縛されず、可愛いキャラバンでヨーロッパを移動するジプシーっていいかも…なんて思ってた。

そして古本屋でこの本が目に入り、「ジプシー少年」というタイトルから、きっとキャラバンで一族と旅をした、甘酸っぱい思い出が詰められている話かな、と思って1ドルで購入。

しかし、読み始めて、予想をでっかく裏切られる。 これを読むと、ジプシーとは、ゴミ野郎の集団だということが発覚してしまう。 彼らはジプシー以外の一般人をゴージャ(gorgia)と呼び、インチキ商売でゴージャから金をだまし取るのが彼らの職業で、子供は学校に行かせず(なぜならゴージャに染まるといけないから)、ほとんどが文盲で、ドメスティック・バイオレンス、児童虐待はあたりまえ。 

これはそういう環境で育った作者の自叙伝で、最初から最後まで悲痛の叫びが綴られてる。 ジプシーの子供は幼いころから格闘技をさせて鍛えるらしい。 でも主人公のマイキーは全く格闘技はダメで、5,6歳ごろから無理やり格闘させられ何度も何度もズタボロになる。 父親はそんなひ弱なマイキーに失望し、事あるごとに暴力を振るうようになる。 マイキーはそのうちに自分はゲイだということに気づきはじめる。 マッチョ文化を謳歌するジプシー社会では、ゲイであることが知られたら、父親に殺されかねない。 一族の結束は固く、逃げ出すことも出来ず、地獄のような毎日の繰り返し。 

あの、おとぎ話のような、ジプシーキャラバンは何だったの? 風のように流れていく自由の民じゃなかったの? 私のジプシーに対するあこがれはガラガラ崩れていきましたとさ。 

この本をネットで調べてたら、なんと映画化されるみたいなのね。 ベネティクト・カンバーバッチが主人公を虐待する父親役らしい。 私のイメージでは父親役はヴィンセント・カッセルみたいなムサイ男なんだけど、でもカンバーバッチだったら、冷血漢的なあの外見で、より恐怖を増すわね。 

この作者は学校には一年足らずしか行けなかったのに、大人になってから読み書きを習って小説を出版できるようになったんだから凄い。 でも、少年時代のトラウマか、いまでも対人恐怖症を引きずっていて人前に出れないって言う。 そうなるのも、この小説を読めば、無理も無いって思うわ。 面白かったけど、幻想をぶち壊されたので、読んだのをちょっと後悔してます。

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