デビッド・ストローター 1966-2017

ノースキャロライナに来る前はデトロイトに私は15年間住んでいた。 なので、ご当地バンド「ノースキャロライナ」の続編として、デトロイト編を書き始めたのだが、ストゥージズとかホワイトストライプスとかクールなバンドがたくさんいるけど、偏屈者の私としてはあまり知られていないバンドをあげたい。 

その一つがマジェスティ・クラッシュ。 1993年にアルバム1枚出したっきりで解散してしまった短命なバンドで、そのあとどうなったのか検索していたらショックな事実を知ったので、この度はマジェスティ・クラッシュ一つに絞って書きたいと思う。

まずは大好きな曲「ボーイフレンド」聴こう💛

youtu.be

 

Boyfriend

電車に乗ると
そこにあなたが座っている
初めて見るあなた
絶対に忘れられない
あなたに近づきたいけど
傍にいるのはたぶんボーイフレンド
その彼を悲しませ
あなたに捨てさせるてやる


あなたが去るのがみえる
あなたが星の上で踊るのがみえる
あなたの瞳は天からの贈り物
僕は歩み寄る、歩み寄る、あなたの微笑みに乾杯する
あなたが去るのがみえる(彼から)
あなたが去るのがみえる


彼はまるで陸にあげられた魚のよう
ジタバタするのを眺める
僕は網を持って
あなたは瓶を持ち
僕らは彼のえらのところを掴んで
頭を落としてから尾を切り離す
頭はアザラシに投げてやれ
しっぽはクジラにあげてやれ

 

あなたがして欲しいことは何でもするよ
僕は行く当ても無く飛行機に乗っている
もし君が食べるのが大すきなら
メキシコの果てまで行くよ
僕らは彼のえらのところを掴んで
頭を落としてから尾を切り取る
頭はアザラシに投げてやれ
しっぽはクジラにあげてやれ


あなたが去るのがみえる
あなたが星の上で踊るのがみえる
あなたの瞳は天からの贈り物
僕は歩み寄る、歩み寄る、君が笑うまで僕は飲むよ
あなたのして欲しいことは何でもするよ

<syco訳>

電車で一目ぼれした女の子の彼氏を殺すことを妄想している歌だね。この恍惚な歌い方に私は参っちゃったんだけど、歌っているのが黒人のシンガーだと想像できるかな。 このバンドはアメリカでは珍しいシューゲイバンドで、しかも4人のメンバーのうち二人が黒人で、更にレア度を上げている。 

当時デトロイトのオルタナ局89Xが「No1. ファン」という彼らのシングルをヘビロテしてたから、全国的にヒットしてると勝手に思ってたけど、どうやら地元だけだったみたい。 こっちの曲は、ジョディ―・フォスターに自分を知ってもらいたいがためにレーガンに銃を放って暗殺しようとした、1981年のあの事件の人物をうたった歌だ。

youtu.be

No1 Fan

Yeah, oh yeah.
Yeah, oh.
僕の蝶々はどこにも行かない
君の名前を呼ぶと僕は気がおかしくなる
僕のジーンズの内側に愛を感じる
車、船、電車、飛行機 なんでも使う
前に立ちはだかるものは全て殺せ
決して迷うことのないファン、それが僕だ

そうさ、僕が君の一番のファン、一番のファン、一番のファン

毎日手紙を送る
君の居場所を突き止める
偽名を使おうが僕には関係ない
車、船、電車、飛行機 なんでも使う
前に立ちはだかるものは全て殺せ
決して迷うことのないファン、それが僕だ

そうさ、僕は君の一番のファン、一番のファンだ イエーイ、Oh
大統領だって殺す、大統領だって殺す、大統領だって殺す


君が書いたものはすべて読んだ
君の台詞は全て言える
君の演じた映画は全て見た
車、船、電車、飛行機 なんでも使う
前に立ちはだかるものは全て殺せ
決して迷うことのないファン、それが僕だ

だって僕は君の一番のファン、一番のファン、一番のファンだから
大統領だって殺す
大統領だって殺す
大統領だって殺す (君への愛のために)

<syco訳>

 

地元でこの曲がヒットし、レコードレーベルと契約して、アルバムを出したものの、そのレーベル(Dali Records)が一か月後に潰れてしまう。 プロモーションもままならないまま、解散の道をたどる。 Wikiによると「彼らがデトロイトでなくマンチェスターのバンドだったら、状況は変わっていたかもしれない」と言われている。 アメリカはグランジィなお子ちゃま軍に押されて、シューゲイは根ざさなかった。 分かりやすいものが好きなアメリカーンにとってシューゲイはカオス過ぎるのか、パフォーマンス要素が無さすぎるのか。

ボーカルのデイブ・ストローターは彼の作る歌詞からも分かるようにかなりエキセントリックな人物で、デトロイトでライブを見た友達が、ボーカルが途中で歌うのを止めたり客を煽ったりグダグダで最悪だった、と言ってたのを憶えている。 実は彼はその頃から、統合失調症と双極性障害を患っていたらしい。 彼が一番影響を受けたミュージシャンはシド・バレットというのも分かる気がする。 

解散後はメンバーはそれぞれのキャリアを進むんだけど、ストローターはL.A.に移り音楽を作りつづけた。 英国シューゲイザーへの愛は治まることなく、" Where the fuck is Kevin shileds!" (ケビン・シールズはいったいどこに隠れてる?)という題名の曲も出したりしている。 その後も病院を出たり入ったりして、とうとう2017年に警官に撃たれて死んでしまうのだ!

警察の報告書の全文がネットにあがっていた。 その日ストローターは斧を車に乗せて、ロサンジェルス界隈を運転し、斧を片手に住民に怒鳴ったりして警察に通報される。 やってきたパトカーに車を取り囲まれ、ストローターは斧を持って自分の車から出て、一台のパトカーのボンネットに立った。 そこを6人の警官に9発撃たれて死亡した。 ストローターは斧でフロントガラスを割り、中の警官を殺す可能性があったから正当防衛だった、というのが警察の言い分で、もちろん警官は無罪となる。 

ストローターがフロントガラスを割ろうとしたとはどこにも書かれていない。 精神疾患のある人物が斧を振り回しているんだから、危険極まりないって思うかもしれないけれど、警官から逃げて走る黒人を背後から撃ち殺しても、正当防衛で通ってしまうのがこの国だから、人種が撃たれる大きな要因となっていることは安易に想像がつくよ。 

ストローターは社会復帰のためのリハビリの施設に入所待ちをしていたところで、彼の前に60人待っていてすぐには入れない状態だったという。 結局はこの国の典型的なゲットー黒人VS.レイシスト警察という絵柄で彼の人生が終わってしまった。 とても個性のあるアーチストが、こんなくだらない死に方をしたのを知って、私、泣いちゃったよ。  

youtu.be

 

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