読書メモ a Start in Life 「華麗なる門出」 

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10代に大好きだった作家、アラン・シリトーの本を古本屋で見つけた。 たった一ドルで数日楽しめちゃう。 古本っていいな~。 

アランシリトーは50年から60年代の「怒れる若者たち」(Angry Young Men)と総称されたイギリスの作家のひとりだよね。 彼の小説の主人公は、イギリスのワーキングクラスで、権力に操られるのは嫌だけど、特に野心とかはなく、日々を狡猾に生きている青年が多い。 それが当時好きだった、ブリティッシュ・パンクやニューウェーブやスカの歌詞と重なって、私はイギリスのワーキングクラスへの憧れみたいなものを抱いてた。 

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今考えると、教養もなく、安月給で工場で働き、週末にパブで泥酔することだけが楽しみなワーキング・クラスのどこがいいか? て思うんだけど、10代は、カッコいいと感じる対象には、理屈なんてないんだよね。 しいて言えば、支配階級やシステムに対する嫌悪感と反発がカッコイイと思ったのかなぁ。

この小説の主人公、マイケル・コリンも、シリトーの小説では定番のノッティンガムのワーキングクラス出身のならず者。 でも彼はノッティンガムを脱出して、舞台はロンドンだ。 

日本語では「華麗なる門出」というタイトルだけれども、華麗ってどこが? 主人公はストリップ劇場の用心棒とか、金(きん)の運び屋とか、ロクな仕事についてないし、女も二股、三股とかけ、そこらじゅうでうそを嘘をつきまくっている。 自分の身の危険を感じて嘘をつくのならまだしも、ただ自分を大きく見せたいとかの理由で嘘をつく奴だから、ほんとうにろくでもない野郎だ。 ぜんぜん魅力を感じない。 これ、10代の私だったら、どう感じてたのかな。

あり得ない偶然の連続で展開も早く、シリトーってこんな娯楽小説も書くんだ、って私としては意外だった。 でも結構楽しめたよ。 マイケル・コリンが出会う様々な人たちが、自分の生い立ちを話すんだけど、それがストーリーの中のストーリーで、それぞれみんな面白いんだよね。 シリトーはやっぱり、巧みなストーリー・テラーなんだね。 それにロンドンが舞台で、馴染みのある駅名や通りの名前が次々出てきて、ふ~っ、また行きたいな~、なんて思ってしまう。

このマイケル・コリンズがシリーズ化されている。 ”a Start in Life”が70年に出版され、それから、"Life Goes on"が85年、そして、2010年に亡くなったシリトーの遺作となる ”Moggerhanger" と3冊続く。 クズ野郎、マイケル・コリンズのこの先がどうなろうと、私は全然気にならないから、それほど続きが読みたいとは思わないけれど、シリトーが15年置きどんな動機を持って書いたのか気になるので読んでみたい気も。 3作目は死ぬ間際に書き上げたんだよ。 私も、死ぬまでには読もう。 そしてロンドンも死ぬまでにもう一度行ってみたいわ~。