私の年間ベストアルバム 1992年 3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life Of... 南部ラッパーに癒される

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当時私は、超治安の悪いデトロイト市の近郊に住んでいて、周りの白人はみんな黒人を怖がっていたね。 エミネムの映画「8マイル」でも有名な8マイルロードを境界線として 白人と黒人の居住区がはっきり分かれてた。 日本ではぼんやりとしか見えてなかった人種問題が、如実に感じられた。

アメリカでのアジア人に対するステレオタイプは数学が得意、教育ママ、運転が下手、ナード(オタク)などで、そう思われたところで、ま、いっか…程度のダメージだ。 それが黒人になるとそうはいかない。 低所得、低学歴、犯罪者…。 スポーツ、音楽に長けてるというのもあるけれど、それで成功するのはほんの一部だということは誰もが知っている。

黒人が不当に警官に撃たれて死亡するという事件は後を絶たない。 私はお店で商品をひとつ買ったぐらいでは、エコを考えて「レジ袋は要りません」って言えるけど、それが黒人だと、絶対言えないらしい。 商品を丸裸で持っていたら、店を出る時点で警備員に止められるって。 必ず店のレジ袋に入れてもらってレシートを握って出なきゃいけない。 それが彼らの日常なのよ。 

80年代の終わりごろから出てきたN.W.Aやパブリック・エネミーなどのギャングスタ・ラップは、権力に反発するその姿勢はパンクロックと同じなんだけど、パンクロックは経済的な不公平さの産物だから私も一緒になって叫ぶことができた。 しかしアメリカの警察の卑劣さや横暴さは聞いているけど、私も一体となってギャングスタラップを歌うには無理がある。 黒人じゃないお前に何がわかるって笑われそうだ。 

そんな中に現れたアレステッド・デベロプメントというヒップホップバンド。 彼らは、西海岸、東海岸のラッパーのギャング闘争とは無関係なジョージア出身の南部ラッパーだ。 南部はアメリカの中でも一番黒人に対する人種差別が強い地域。 だけれども、拳銃を持ってFuck the Police と叫ぶ代わりに、「雨上がりの虹を見て、自分の肌の色に誇りを持とう」、「子供たち、泥遊びしろ、土で遊べ」みたいなナチュラリスト的なアプローチだ。 ゴスペル色も強く、心が洗われるような曲もある。 それでいて、ノリは軽快で踊りださずにはいられない。 なんかすべてを受け入れるようなポジティブさが、良いの。 怒りよりも悟りなんだね。

このバンドは結局このデビューアルバムが大ヒットして、そのあとは全然売れず一発屋になってしまった。 でもこのアルバムは精魂がガッツリ込められて、客観的にみても名盤だと思う。 

全曲好きだけれど、特にヒットした名曲を二つ訳しました。

 

● テネシー 

神様、僕は身も心も疲れ果てて、
打ちのめされて、もう負けそうだ
僕は黒人でそれに誇りを持ってはいるけど
いろんな問題が僕を悲観的にする
ブラザーやシスターは過ちを繰り返す
なぜこんなに苦しまなきゃいけないのか?
僕の頭蓋骨からこの亡霊をたたき出すのに
一体どこに行けばいいのか?
僕のおばあちゃんは死んだし、弟も逝ってしまった、 
こんなに急に孤独を感じたことはなかった
あなたは僕のハンドルを握ってくれてるはずだろう? 
スペアタイヤじゃないはずだ。
神様、頼むよ
僕を真実に導いてくれよ
どういう理由かわからないが
神は僕をテネシーに導いた

何処かに連れて行ってくれ、どこか別の土地に
僕を苦しみを忘れさせてくれ、あなたの意図を教えて欲しい

神様、僕があなたと繋がっていることはよくわかる
朝夕、あなたと話しているのだから
僕よりずっと偉いお方なのに
僕ら友達のように会話をする
それが突然、あなたは言われた
この田舎を抜け出し、もっと田舎に行けと
子供の頃に見た幽霊が彷徨う
ダイエスバーグとリプリーと越えて
先祖の父たちが歩いた道を行け
先祖の父たちが吊るされた木に登れ
そしてそれらの木々から知恵を学べ
僕の耳はまだ未熟だと、木々は言うだろう
自分のルーツに戻れという
僕の家系、僕の苗字
どういう理由かわからないが、
テネシーに行かなければならないと言うのだ

何処かに連れて行ってくれ、どこか別の土地に
僕を苦しみを忘れさせてくれ、あなたの意図を教えて欲しい

やっと歴史の重大さが見えた
なぜ僕らの人種はダメなのが
ゲットーの街角で争いを繰り返すブラザーによって
自由への道の多くが、無駄に終わってしまったんだ

神様、なぜ俺に目を覚まさせてくれたのか
なぜ他のみんなを放っておくのか
神は言った 
なぜなら、僕は自分で真実への旅に向かったから
そして神様は天にいて、僕の渇きを癒してくれるという。
しかし僕はまだ喉が渇いたままだ

神様はもっと僕に水を与えて
こう言った
僕の探している答えはみんな
僕の目の前にあるのだと
究極の真実がだんだんぼやけてきた
それにはなにか特別な理由があるはず
それは全てテネシーの夢なんだ

何処かに連れて行ってくれ、どこか別の土地に
僕を苦しみを忘れさせてくれ、あなたの意図を教えて欲しい

あぁ、僕に力を与えてくれ、僕を救ってくれ
あなたの意図を教えてくれ
故郷に帰してくれ、故郷に帰してくれ、僕を他の場所に連れて行ってくれ
故郷に帰してくれ、故郷に帰してくれ、僕を他の場所に連れて行ってくれ

<syco訳>

 

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ノリはいいけど、ビデオを最後まで見ると、ラストシーンにガツーンと落とされるので注意。

 

● ウェンダルさん

はい、1ドルをあげる
まって、やっぱり2ドルあげることにする
僕らにとって2ドルはスナック菓子しか買えないと思うけど
あなたにとっては大金だ
強い心を持って神に使えれば、 
美しい天国が待っている
それは僕が初めて書いた詩だ
ある人物に会った、服もお金も食器も無い人だ
彼の名はウェンダルさん
誰も彼の名前を知らない、なぜなら彼は誰でもないから
年を取ったホームレスなど誰も気に留めない
でも僕はふとしたことで、彼を知るようになった
今は彼にお金を渡すのはチャリティではないってわかる
彼が僕に知恵をくれるし、僕は彼に靴を買う
そして、黒人は大学に行くのに、全財産を使ってしまうけど
たいていは混乱したまま卒業するってことを考える

それ行け、ウェンダルさん、

ウェンデルさんには自由がある
僕やあなたがくだらないと考える自由
ウェンデルさんをすぐに浮浪者と見なして
ディスる社会からの自由
彼が心配するのは病気になることと
そして、時々警察から嫌がらせを受けることだけ
僕らは彼を野蛮人と呼ぶけど、
彼が僕らが無駄にしている食べ物を食べているのを見たよ
僕らが本当に文明人だって言えるのか
僕らはそんな身分なのか
何千もの人間が残忍に奴隷化され
人種間のいがみ合いで殺されているというのに
ウェンダルさんは僕らに警告を与えようとしてるのに
僕らは耳を傾けようとしない
僕らが度を越してしまったのは彼のせいか
僕らは行き過ぎた、だって僕らは彼を踏みにじるから
ウェンダルさんは人間だ。 肉体を持つ人間だ
でも、規則には従わない
僕は胸を張ってあなたの尊厳に敬意を払う
あなたはいつも堂々としている

それ行け ウェンダルさん
ウェンダルさん Yeah
神のご加護を、ウェンダルさん

<syco訳>

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